「ぽっぺん」



さて、時間をかけてゆっくり楽しんで読んでいたエッセイが一冊読み終わり
ました

石田 千 著  「ぽっぺん

この人の作品の「月と菓子パン」というのを、遊哉さんが以前に紹介されていて、
そのときの印象がとても強かったので、いつか読んでみようと思っていたので
すが、たまたま図書館でこの作品を見つけました(*^_^*)

この石田千という人、文章からはある程度年の締まった人というイメージが
あったのだけど、プロフィールをみてびっくり。

私よりも年下だ!

なのに、この落ち着き。
凛として、矜持をしっかり持って生きている感じ。
なんというか、佐野洋子さんあたりを彷彿とさせる文章なのですよね。
うーん。これは・・・。
私ももっとしっかりしなくちゃなあ(自爆)

それはともかくとして。
内容としては、季節の移り変わりや毎日の生活でつい見過ごしがちなこと、
あるいは幼少の頃の思い出話など多岐にわたっていて、読んでてしみじみと
したり、どきっとしたり。
印象に残ったところを挙げてみると。


「桜だらけ」

町じゅう桜だらけになった。
きょう、あしたと待ちわびて、咲きはじめれば雨風が気になる。
さきざき心配するのにくたびれて、いっそはやく散ってしまえばいいと思い
つめる。


あー、あるよねー、って感じ(笑)
桜の時期は気が揉めますよね

きぬさや、スナップえんどう、グリンピース。
そののち天豆、枝豆とつづく。
春風は、みどりいろの豆ごよみをつぎつぎめくる。


そうそう。
この時期は、桜いろと新芽のみどりいろと、みずみずしくやさしい色のイメージ
なんですよね(*^_^*)
みどりいろの豆ごよみ、かあ。
なんてきれいな表現なんでしょうね
でも、このあと。

そろそろ包丁を研いでおこうともくろみながら、今日はひとまず。
しなびたごぼうを切ったら、刃先がよじれて指をむく。
小指のあたまに、5ミリくらいの噴火口ができた。
爪もとれている。
背中で秒針の音が響く。
それからやっとお湯のように、血が湧いてきた。
ちり紙は、ぐるぐる巻きつけたそばから、どんどん赤く染みていく。


読んでて、背中がぞくぞくと寒くなりました。
誰にでも一度は経験のあることですが。
しなびたごぼうで、というところがリアルですよね。
春のおだやかなやさしい雰囲気からの急転回。
状況が目に見えるようです。
で、最後の一文が、これ。

会うひとごとに、おとしまえですかときかれる。
なさけない花見つづきとなった。


“おとしまえ”だって


ほかにも紹介したいところはたくさんあるのだけど。
長くなるので、あとひとつだけ。


「あたらしい名まえ」

きのうは、強い地震が来て、明日は台風がくる。
おちつかない静かな町を、丸腰で歩いている。
揺れるまで、なんにもわからなかった。
灰いろの雲をたしかめる。
    
   ―中略―
昼寝をしたときも、寝苦しいということもなかった。
扇風機は律義に首をふったし、冷えたメロンはやわらかく熟れていた。
半分に割り、おおきな匙で、半分まま、すくって食べた。
夕方は、約束のまえにバーゲンセールをのぞきたかった。
はやめに出て、駅ビルをふらついていた。
そのときに、突き上げられ、半歩よろけた。


そう、地震が来るからといっても、虫の知らせみたいなものはまるきりないの
ですね。
あたりまえと言えばあたりまえなのだけど。
でも、それにしても地震が起こるまでは普段と変わらない一日であったのが、
不思議なような、理不尽なような。

店の女のひとが、怖かったですねと声をかけてくれる。

・・・きょう、出勤でよかったって、思いました。
ひとりでいたら、すっごく怖かったでしょう。

ほっとした声をしている。
ひとの流れが増し、こぜりあいも起きているにぎやかなビルに、このひとの大切
な定点がある。


“大切な定点”か。なるほど。
これを読みつつ、私も残りの人生で“大切な定点”をいくつ見つけられるかなあ、
などと考えていました。


ほかにも印象深い話が盛りだくさんで、あっという間に読んでしまいそうなのを、
寝る前に少しずつ大切に心に刻み込むように読みました。
それでもあっという間でしたけどね

そうそう、題名の「ぽっぺん」というのは、小さなガラスの瓶で、管がついていて、
それを吹くと「ぽっぺん」というような音が出る玩具なのですね。
時代劇で見たような覚えがあるのですが。

ハーモニカみたいに吸ったら、割れてけがをするのだそうです。
知らなかったなあ。
そこを読んだとき、間違えて吸ってしまったら、と想像して、またまた背筋が
ぞくぞくしました(笑)




ぽっぺん
新潮社
石田 千

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この記事へのコメント

2009年11月16日 20:35
 そうなんです。この石田 千さん、わりと若いんですよね(^^ゞ。
ちょっと古い言葉も使ったりしてますが、文章にキレがあるし、リズムもいいですね。感覚も面白いし、さり気なく的確な表現をしていると思います。
 みごとなエッセイですね。
 この方は、ほかにもいろいろ書いてるから、また是非読んで紹介してください(^^♪。
2009年11月16日 21:05
懐かしい駄菓子売ってる様なお店で 売ってますよ なにしろガラス すぐ 割れちゃいますけどね
2009年11月16日 23:38
遊哉さん、こんばんは
ほんとに表現が的確で、感性も鋭いのが伝わってきました。幸田文さんとかの雰囲気もあるような感じ。若い人でもこんな人がいるんですねえ。まさに才能。
それにしても、こんなふうに自分が思ってることを的確に文章にできたらいいなあ。書いたあとは達成感があるでしょうね
この作品だけでなく、もっとほかにもこの人の文章を読んでみたいと思ってます(*^_^*)
2009年11月16日 23:40
seiziさん、こんばんは
駄菓子屋さんにあるんですか
今度、見てこよっと。それにしても、やっぱもろいんですね。間違って吸っちゃったら・・・ゾゾゾッ
2009年11月17日 12:38
なにかぐーっと
生々しく追い詰めていって、
ふっと抜く 間 があるような。
不思議な感じですね。
2009年11月17日 18:54
moumou.h53さん、こんばんは
今の若い作家のエッセイは、どっちかというとほのぼの系というか、軽いタッチのものが多い気がしますが、そういうのとは一線を画している感じがしました。
かなり異色ですよね。でも面白かったです

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