愛犬家の作家たち




最近、愛犬家の作家のエッセイを2冊、続けて読みました。

中野孝次著 「ハラスのいた日々」

安岡章太郎著 「愛犬物語」


とっかかりは、以前読んだ中野孝次さんのエッセイの中に、ちらっと昔の
飼い犬ハラスのことが書かれていて、とても慈しんだ様子だったので、いつか
図書館で見かけたら「ハラスのいた日々」を読んでみたいと思っていたところ、
これがシンクロニシティというものか(笑)、数日後に見かけたのでさっそく
借りて来ました(*^_^*)


ハラスというのは柴犬で、著者が家を建てたときに親族からプレゼントされた
犬なのですね。

夫婦ふたり暮らしだったので、仔犬のハラスは子どものようにかわいがられた
ようで、一度だけ旅行先で行方不明になったときの夫妻の心痛のほどは筆舌に
尽くしがたいほどのものであったようです。

突然のこの事態に夫妻は動顛し、
「世界はこのときからただ“ハラスがいない”という色合いに染まった」
と書かれているほど。

さらに
「われわれの生を構成している感覚の紐帯がふいに暴力的にたち切られ、
そこから見えない血が噴き出すような苦痛を感じた」
とも書かれていますね。

仔犬のときからかわいがって育てたハラスは、夫妻にとっては人生そのもので、
ただの犬ではなくなっていたのですね。


ちなみに、この「HARRAS」という名前は、ドイツ人が大型シェパードに付ける
ことの多い名前だそうです。

著者が翻訳したドイツの作家の作品「犬の年」のなかに出てくる犬の名前でも
あるとか。

このハラスは13歳で亡くなるのですが、そのときの悲しみも、
「私たちの40代から50代にかけての13年が、そこに葬られたのであった」
という悲痛な言葉で表されています。

こういうのを読むと、犬を飼うのに二の足を踏んでしまうんですよね。

家族が亡くなるのと同じことだからなあ。。。



さて。

もうひとつのほう、安岡章太郎「愛犬物語」ですが。

これも図書館で見かけたのですが、愛犬ものであることと、ずっと昔に熱中して
読んでいた遠藤周作のエッセイに頻繁に著者の名前が出ていたことを思い出し、
興味を惹かれて借りて帰ることに。

こちらは「ハラスのいた日々」とは少しばかり趣の違う本で、そもそも犬を飼う
ようになったきっかけが友人で同じく作家でもある近藤啓太郎が強引に置いて
いったから、というものなのですね(^^ゞ

安岡章太郎は中野孝次とは違ってふたりの子持ちだし、犬も以前に幼稚園に
通っていた娘さんに懇願されて、コッカースパニエルを飼った経験もあるの
ですね。

ただ、この犬は愛玩犬にありがちな甘えん坊で、ひっきりなしに鳴く上に
トイレの覚えも悪く、半年余りで手放してしまったとのこと。

今度も特に犬が欲しかったわけでもなさそうなのですが、なぜか変わり者の
友だちが世話を焼いてくれて、飼う羽目になった、といった感じなのですね。

こちらは紀州犬で、柴犬よりは大型だし力も強いしで、散歩などもなかなか
たいへんな犬なのですが、「コンタ」と名付けられたこの犬はコンクールに入賞
するなどした、優秀な犬だったようですね。

余談ですが、この「愛犬物語」のなかにも遠藤周作とのエピソードが語られて
いて、それもとてもおもしろかったです。

なんでも、先輩O氏に遠藤周作が“生粋の純日本犬の仔犬”というのをプレゼ
ントし、O氏はその犬のために大工を呼んで白木造りの犬舎を作らせ、「仁王」
という犬の名前を墨痕あざやかにしるした表札までかかげて、成長したら太い
引き綱をつけて引っ張って歩くのを楽しみにしていたのだそうですが。

しかるに、「仁王」は成長するにしたがってだんだんに日本犬らしからぬ容貌に
育っていき、ついにはライオンともタヌキともつかぬ奇妙な珍獣になってしまった
とか(笑)

のちにわかったところによると、遠藤の飼っていた秋田犬のメスに隣家の
スピッツがけしからぬ行為におよんだからだ、ということだそうですが(笑)

またそれからしばらくして、まだ珍しかったダルメシアンを見た彼は、さっそく
どこかからダルメシアンならぬダメニシアンと称するムク犬を手に入れて
飼い始めたのだとか。

安岡章太郎はこの犬を見たことはなかったのですが、人づてに聞いたところ
によると、ボロボロの綿のはみ出た布団みたいな犬だとのこと(笑)

「まるで、寝小便した子どもが濡れた布団をかついで歩かされてる、あんな
格好の犬ですよ。目つきもショボンとしてましてね」
と、ある人は言ったとか。

いかにも狐狸庵先生らしいですよね(^o^)


それはともかく。

このコンタ、初めての発情期のおりには庭を全速力で狂ったように駆け廻った
り、いつまでもサイレンのような鳴き声をあげたりと、それまでにない行動で
飼い主である著者を困らせるのですが。

そのときに著者の妻が、
「ヘンね、吉行(淳之介)さんの犬ならともかく、うちのコンタがこんなことに
なっちゃうなんて」
と言ったのだとか(爆)

奥さん、ナイスツッコミ!と私は思ったのですが

これについて著者は、このように書いています。

“これは愚妻が、夫についても夫の友人についても、どんなに浅はかな誤解を
積み重ねているかをサラケ出しているにすぎない。
第一、吉行の艶福は吉行が常時発情していることだという、その発想からして
たいへんなマチガイである。
吉行は、塀越しに悩ましい女性の臭いを嗅ぎつけたからといって、決してあんな
にブザマに七転八倒、庭を転げまわって、サイレンみたいな鳴き声をあげたり
する男ではない。
もっとスマートに、余裕を以て、都会的に悩む・・・”


ほんとうに、作家というのはおもしろい人が多いですよね(^o^)


ところでこのコンタですが、紀州犬は10歳くらいが平均寿命だといわれている
なか、老衰で亡くなるまで15年間生きたのだとか。

愛犬の死に際して、著者は自分に詩才があればこの何とも名づけようのない
むなしさを詩に託することもできようけれど、その才能もない。ただ、先輩の
抒情詩人の口真似をして、次のように呟いてみるだけだ、として。

コンタの庭にコンタを眠らせ
コンタの上に雪ふりつもる・・・


と書いています。


これもまた、幾多の言葉を重ねるよりも悲しみが滲み出ていますね。


上記の2冊を読んで、また以前のように犬を飼いたくなった私ですが。

でもやっぱり、死なれたときの悲しみは考えただけでも背筋が寒くなりますね(~_~;)


そうはいっても、出会いと別れはワンセット。

出会いの楽しさだけを味わうというわけにはいきませんよね。




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この記事へのコメント

2010年10月09日 18:22
あの 別れの悲しみを 味わいたくないために 飼う楽しさを放棄してる これ 過言ではありません 私
2010年10月09日 23:39
seiziさん、こんばんは
ああ~・・・わかりますね(~_~;)
犬がいれば楽しい思い出もできるんですけどね。わかってはいても、死なれたらと思うと躊躇しますよね。。。
2010年10月10日 07:16
犬も猫も好きで、たくさんの出会いがあり、別れがありましたが・・・・
あいつは、ああだったな・・・こいつは、こうだった・・・・・とたくさんの思い出を楽哀まじえて残してくれてますけどね。
それがあるから飼うのかも・・・(^^♪
ただチャン
2010年10月10日 13:13
こんにちは(^-^*)/
死んだ時の事考えると躊躇しますが、いつかまた飼いたいなぁと思ってます。
リタイアしてマンション処分して実家に引っ込んだら(^O^)/
もうさすがに放し飼いなんて無理ですけどね。
2010年10月10日 19:32
 「ハラスのいた日々」は、だいぶ昔に読んだことがあります。旅行先で行方不明になった、話にはどうなることかと思いました。中野さんは柴犬に惹かれて、ハラスの死んだ後も柴犬を飼ったんじゃなかったでしょうか。
 「愛犬物語」は読んだことはないんですが、その遠藤周作さがプレゼントをしたおかしな犬の話は、どこかで読んだ覚えがあります。たぶん遠藤さんのエッセイじゃないかな(^^ゞ。
 安岡さんは、自分ではあまり面倒をみない愛犬家じゃないでしょうか(^^ゞ。
 歳をとってくると、人も犬も亡くなるということは悲しいけれど、それを素直に受けとめられるようになりました。猫もそうでしょうが犬は特に人と深い交流ができるから、楽しみながらいっしょに生活していくことが大事だと思います。死ぬのは生きていれば仕方ないことですからね。
 楽しいですよ。犬や猫を飼えるのは、自分が生きているうちしかできませんよ(^^ゞ。飼ってみては、いかが(^^♪。
2010年10月10日 20:16
ねこのひげさん、こんばんは
ねこのひげさんちには犬や猫がたくさんいて楽しそうですもんね。最近拾われた猫のサブちゃんもたくましく育ってますね(*^_^*)
死なれると悲しいけど、それらも含めて思い出で、のちに心の宝となるんですよね。一歩踏み出してしまえばいいことなんでしょうが。。。
2010年10月10日 20:19
ただチャンさん、こんばんは
ただチャンさんのご実家だと、犬や猫はのびのびできそうですね(*^_^*)
犬がいたらイノシシも追いはらえるし、一挙両得かも。あれからイノシシ被害は大丈夫ですか?
2010年10月10日 20:28
遊哉さん、こんばんは
そう、私が以前読んだ本は中野さんがハラスに死なれた後に飼った柴犬が出てくるエッセイで、そのときに亡きハラスについて触れてたんですよね。
遠藤周作のエッセイの中には、いろんな作家仲間の名前が出てきますよね。三浦朱門と一緒に泊まった旅館で怪奇体験をした話などおもしろかったし、佐藤愛子との絡みも抱腹絶倒ですよね♪

喜怒哀楽、味わえるのも生きているうちだけですもんね。こぶた2号がしきりに犬をペットショップに見に行きたがるんですが、あの子のことだから、こないだのパソコンみたいにすぐすぐに「これ下さい」と言ってお持ち帰りになるのではないかと思い、こわくて行ってません(爆)
「死」も、ある意味自然なことだというのは、ここ数年でちょっと受け入れられるようになった気もしますが。
でも、自分の身近だとなあ。できうるかぎり避けたい気持ちが先に立ってしまうんですよね(~_~;)
2010年10月11日 18:08
こんばんは
イノシシは1頭捕獲されて・・
もう1頭・・今のところ大丈夫みたいです!
むか~しイノシシは天草には居なかったそうです。
八代方面から泳いで渡ったとか・・
目撃者の話もあるんです・・信じてないでしょ^^;
2010年10月11日 19:08
ただチャンさん、こんばんは
1頭捕獲はされても、まだいるんですね
でもそちらのイノシシはまだおとなしめみたいですね。こちらのはハイカーがお弁当を持っているのを学習して、バックパックを狙って襲いかかってくるみたいですよ(~_~;)
八代方面から泳いで・・・どれくらいの距離なのかなあ。泳ぎはもちろん犬かき?!(^^ゞ

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